彼が鳶から番犬になるまで

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  強かに酔っぱらった私を、番犬は番犬らしく送り届け(ただしタクシー)、そのまま上がり込んで夜が明けた。 宣言通り送り狼になることはなかったものの、朝食を待つ姿は番犬と言うよりは室内犬。 やたらとでかい迷い犬を拾ったもんだとキャベツを刻みながら思う。 こんな勢いで始まった関係も、そこそこ過ごしてみれば心地よかった。 何しろ相手は全面的に降伏状態の犬。 腹を見せてハッハッ言ってるみたいに、手の内を全部見せて、頼ってくれて、大事にしてくれる。 妥協だった気持ちが本気になっていくのは自然の流れで、彼が仕事で会えない日が長く続くと、自分のどこかが欠けたような心細さが募った。 彼を支えていた松葉杖が消え、複雑骨折だった右足もほぼ完治となった頃。 「ねえ、有美ちゃん、そろそろちゃんと答えがほしい。まだ妥協?」 そうじゃないことぐらい解っているだろうに、ずいぶん「待て」してたんだなあ。 「いや。妥協じゃないよ」 「そう、待った甲斐があったわ」 言うが早いか、後頭部をぐわしっと捕まれて、唇が触れた。 「入院からこっち、禁欲生活だったからねえ。 お預けが長すぎるよね」 番犬は室内犬で、夜は猛犬だとか、ほんとつかみどころがないんですけども。 そんなふわふわした彼の飼い主であることを幸せに感じている。
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