彼が鳶から番犬になるまで

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  ********** 太陽が眩しすぎて目が眩みそうだ。 肌を撫でる風が気持ちいいとか、緑が綺麗だとか、雑多な音がするとか、しみじみ感じるのはいつぶりだろう。 なんとなく飛び込んだ土建業者の仕事は三日目で、何もかもが新鮮に思えた。 ただ、そもそもの仕事はあるとキープしたまま、この業界に生ぬるい気持ちで飛び込んできたのが、回りには丸分かりだったのだろう。 ちょいちょい嫌がらせは受けた。 ま、僕らの業界でもある話だ。 全く人ってやつぁ、羨ましいなら羨ましいって認めりゃ良いのに、それを暴力だ暴言だに変換するから質が悪い。 その日も二階建ての家屋の工事で、足場の先端に立ち、資材を待っていた。 ああ、気持ちいいわ。 スタジオの淀んだ空気とは違う。 いいね、飛べたらもっと気持ちいいだろう。 「ぼーっと立ってんじゃねえよ」 同僚としては、脅すつもりだったのだろう。 しかし奴が持っていた角材は確実に僕を突いた。 あ…… いくら飛んでみたかったとはいえ、そりゃ無理があるだろう。 とりあえず足から着地することだけを考えた。 飛び降りるにしては高さがありすぎるのも解っていたが、商売道具の頭と手は守りたい。 脳天を突き上げる痛みに呻きが止まらなかった。 ああ、こういうときちゃんと鍛えてたら捻挫ぐらいですんだのかな。 栄養失調で倒れて運ばれるような生活はダメだね。 その後のことはよく覚えていない。
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