彼が鳶から番犬になるまで

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  足は案の定ポキボキで入院に至ったわけだが、奴にも人の心があったのか、周りが証言してくれたのか、治療費は支払ってもらえることになった。 バイト三日目で莫大な治療費、申し訳ないと言えばそうだが、当然とも言える。 本業もセーブしていたから、本当に久々に何もしなかった。 することがないと、専ら人間観察だけが楽しみになった。 担当の川崎さんは随分サバサバした女性だった。 男、いなさそうだよな。 それが最初の印象。 怪我の話になったときのドングリ眼が可愛くて、「飛んだと思われてる」と気づいたときは、激しく吹きそうだった。 そこからだ、面白そうだから彼女を観察するようになったのは。 至って真面目に仕事して、疲れているんだろう、たまにため息をついて、時々イラつきに顔を歪ませている。 実に素直だ。 羨ましいくらいに。 見た目と心が女な友人がやって来たときも、ちょっと悔しげな目をしてた。 普段ならちょっとは雑談するのに、それさえせずに逃げるみたいに病室を出ていく後ろ姿に、寂しさを感じた。 医師に声をかけられたときのため息と、無表情で短い会話を終えたあとのため息に、若干の違いがあったとは、本人も気づいていないだろう。 なんか、危なっかしい。 それなりに気に入って、つまらない病院生活の潤いになっていた彼女が、ややメタボ気味のオッサンに持っていかれるのは癪だ。
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