彼が鳶から番犬になるまで

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  「他のナースさんに声かけてました」 嘘は言ってない。 食事に誘ったかどうかは別として。 そう忠告した瞬間の彼女の顔は無表情だった。 努めて感情を出さないようにはしているのだろうが、そもそも素直なんだから会話を続ければ滲み出る。 その中に"悲しい"という感情がないのが解ったから、僕はほくそ笑んだ。 この足では動けない、ならば動く頭で策を練れば良い。 彼女は見事に医師を振った。 それ以降の二人のやり取りを見て確信したことだ。 とりあえず邪魔者は消えた。 あとは動けるようになるまでに、どう自分を売り込むか、だ。 ほんのちょっと意識してくれるだけでいい。 僕の友人が世話をしていたら複雑だなとか、退院したら寂しいなとか、それくらいでいい。 その後の攻撃は動けるようになってから仕掛ける。 飛んだ疑惑にしろ、友人にしろ、センセのことにしろ、彼女は騙されやすい。 それなら僕にも騙されてくれるだろう。 今はまだ本気になってくれなくて良いよ。 いずれさせるから。 飼い慣らされた犬の振りをして、飼い慣らしてあげる。 好きな子が出来るのが久々過ぎて、今まで以上にワクワクしてる。 僕ね、アレンジは得意なんだよ。 僕も君も楽しい生き方、良いと思わない? 覚悟して、川崎さん。            end      
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