彼が鳶から番犬になるまで

4/17

20人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
  どうやら彼は自分から退職したらしい。 ただ、治療費はしっかり受給して。 バイトにいきなり高所作業を任せた会社側にも問題はあるが、自ら飛んだのなら治療費もどうなのよと思わなくもない。 まあ、人のことだけど。 私の中で彼は「飛んだ男」、もしくは現在進行形で「ぶっ飛んでる男」だった。 痩せぎみで、色も白くて、どう見ても肉体労働者に向いているとは思えない見てくれなのに、どうしてバイトに鳶職を選んだのか聞いてみたら、帰ってきた答えが斜め上だったからだ。 「もともと曲提供とかアレンジの仕事をしてたんだけど、ずっとスタジオとか部屋の中だし、集中するとご飯食べなくなるから栄養失調になって倒れて運ばれちゃったんだよね。 だからこれじゃいかんなと。 日の光を浴びつつ、力もついて、なおかつお腹もすいて食べざるを得ない仕事をしてみようかなって思って」 まずは体力をつけろよ!! 「ジムには通ったんだよ、これでも。 でもさ、アレンジの仕事しながらジム行って、疲れて寝ちゃうと仕事にならないじゃん? 稼ぎながら体力つけられないかなって、思ったら、総合的にいいような気がして」 同じ体力仕事なら、引っ越しやさんとかの方がまだあなたには合ってる気がするよ。 「両足がダメじゃ体動かす仕事できないから、またアレンジの仕事もらってきた。 やっぱ僕にはこれがあってるんだろうなあ」 ……全くもって意味が解らない。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加