彼が鳶から番犬になるまで

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  トレイを置いて、部屋を出ようとしたときだった。 「あの先生はやめといた方がいいよ」 小さな町田さんの声がした。 「は?」 「昨日、川崎さん休みだったでしょ? あの人、別のナースさんに声かけてた」 …………。 なんでそんなことを私に言うのだ? 「なんか川崎さんって騙されやすそうなんで、一応ご忠告」 騙されやすいは余計じゃないかな? 「あー、それはそれは、お気遣いありがとうございます」 「どういたしまして」 にっこり笑って朝食に手をつけ始めた彼を一瞬見てから、部屋を出る。 リア充というやつは、人のことまで気が付くらしいよ、ちくしょう。 にしても、手当たり次第かよ、あのドクターは。 今朝のお誘いに一瞬でも付き合ってみようかななんて思うんじゃなかった。 勤務後、今朝持ちかけられたイタリアンレストランでの夕食をきっぱりお断りした。 今後のお誘いもご遠慮願うと宣言までした。 心底スッキリした私は、食べ逃したイタリアンの代わりに、病院近くの牛丼屋で大盛り汁だくをかきこみながら、ビールで「シングル万歳!! 」と一人で祝杯をあげた。 明日は遅番だ、二杯くらい大丈夫。 そう、一人で飲むビールも悪くないのだ。     
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