彼が鳶から番犬になるまで

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  勤務後、病院を出て繁華街に向かって歩く。 私のお目当ては帰宅途中にある居酒屋だ。 凍ったジョッキで泡まで美味しいキンキンのビールを出してくれる、ついついお父さんと呼んでしまう大将がいるお店。 明日はお休み、しかも晴天の予報。 昼まで寝て、掃除と洗濯をして、作りおきのための食材を買って……やることが山ほどあるから深酒はできないけど、ちょっと気分がいいから三杯くらいはいいよね? そうホクホクする私の前に、松葉杖の人影。 塀に寄りかかっていた体がこちらを向く。 「おかえり。お疲れ様」 「どうも。いや、なんでいるの?」 「待ってた」 ヒョコヒョコと歩いてくる、町田さん。 「川崎さん、危なっかしいから送るよ」 「満足に歩けない怪我人に"送るよ"って言われましても」 思わず笑った。 「番犬くらいにはなるでしょ」 「送り狼になる危険性は?」 「僕、怪我人よ?狼にはなれない。番犬止まり」 番犬さん。 仮に暴漢がやって来たとして、あなたを突き飛ばしたら、もう役に立たないって解ってる? 対する彼はハッハッと尻尾を振りたくる犬のように、嬉しそうに私を見ている。 全くもって意味が解らない。 「残念でした。私、今からご飯食べに行くの」 「あの先生と?」 町田さんが眉間にシワを寄せた。 「まさか、一人ご飯です」 「じゃ、付き合うよ」 ……なんでだよ。
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