第1話 恵茉は死ぬ事にした

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 一人の少女が、エレベ―ターに乗り込む。行き先は13階。最上階だ。エレベーターは滑るように動き出し、最上階へと向かって行く。  少女は何の感情も示さず、その瞳も光を宿さない。まさに能面のようだ。 少女の名は、楠恵茉(くすのきえま)高校二年、17歳。住んでいるマンションの最上階へと向かっている。ちなみに彼女が家族と住んでいる部屋は3階だ一見したところ、学校の帰りなのだろう。  制服のままのようだ。白い半袖のブラウスに、ワインカラーの蝶ネクタイ。典型的なバーバリーチエックのプリーツスカート。足首辺りまでのホワイトソックス、黒のローファー。  肩の下まで伸ばされた黒褐色の髪は、ハーフアップにして黒いゴムで結んでいる。卵型の顔の輪郭にややパッツン気味の前髪がよく似合っている。高くも低くもない鼻は、形良く顔におさまり、ふっくらした唇も平均的な大きさだ。やたら長い睫毛に囲まれた大きな黒褐色の瞳をよく際立たせている。  肌の色は日本人の平均的肌色をやや色白よりにした感じか。これで、生き生きと楽しそうにしていれば、若さと笑顔の効果でかなり可愛らしく見えるのだろうが…。  如何せん、無表情なのだ。 彼女が無表情である理由はただ一つ! 『これから死のうとしてるから』であった。 何故死のうとするのか?……はて?何故であろう?  彼女は両親と三人家族。少なくとも、家庭内で何か問題がある訳ではない。また、学校で虐めがあったとか、塾で苛めがあった訳でもない。教師と何かあったとか、そんな問題も皆無だ。  では、何故に彼女は死に急ぐのか? 一言で言えば「なんとなく」というところらしい。まぁ、思春期にありがちな葛藤というのだろうか? 「みんな、何が楽しくて生きてるんだろう?」  という哲学的思考が、考えすぎて答えが出せず、鬱状態になってしまった。こんな感じであろうか。  ではここで、今の彼女の心境をお伝えしてみよう。
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