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彼女と話せる言葉は少ない。だからこそ、どんな言葉を書けばいいかというのをいつも考えるようになった。彼女の事を知りたいという気持ちもあったけれど、彼女を笑わせたいという気持ちもあったので、結局くだらない会話を書いてしまうことも多々あった。
会社の昼休みや帰りの電車、家に帰って風呂に入っているとき、気が付けば彼女のことばかり考えている時間が増えていた。
「それは、ズバリ恋ってやつだな」
同期の小清水が社食でラーメンをすすり、割り箸を僕に突き付ける。
「お前が、しつこく聞いてきたわりに興味なさそうな態度はやめろ」
「最近お前が随分楽しそうにしているから何か良い事あったのかと思って聞いてみたら普通に恋バナだったのでつまらないなと思っただけだよ」
小清水は歯に衣を着せない言葉で言う。ひどい事をよく言われるが、それほど嫌な気持ちはしない。言葉に悪意がないからかもしれなかった。
「それに、恋なんかじゃないさ」
そうだ。これは恋なんかじゃない。
「じゃあ、そこにある気持ちは何だって言うんだ?」
再び割り箸を突き出して僕の心臓部に当てる。
「彼女の事を考えている時、そこにある気持ちはなんだ? どうして、毎日彼女の事を考える?」
「僕は彼女の名前も知らないんだぞ?」
「関係ないだろ。お前、彼女の名前に恋してるのか?」
自分の気持ちを振り返ってみる。確かに、どうして彼女の事ばかり考えるのだろう。彼女を笑わせたいと思うからだ。どうして、笑わせたいと思う? 笑う姿が見たいからだ。どうして笑う姿が見たいんだ? 僕が嬉しい気持ちになるからだ。なぜ彼女が笑うと嬉しい気持ちになる?
「……もしかして僕は彼女のことが好きなのか?」
「俺に聞くなよ。あ、プリン食わないなら俺がもらってやるよ」
小清水は僕が頼んだ定食についてきたプリンに手を伸ばすのでその手を叩いて振り払った。
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