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ザザ……… ザザ………
遠くから、
波の音がする。
家の中に、
それ以外の音は無い。
暖簾を上げた手を下ろすのも忘れて、
僕は、停止した。
覚悟はしてた。
だけど、
僕が思っていたのとは、
全く違う光景が、
そこにはあった。
ばあちゃんは………
“無くなってた”。
切りかけのネギ。
食卓に用意された、
二人分の箸。
そして、研いだままの米。
いつもの生活がそこにあるのに、
そこに、ばあちゃんだけが居なかった。
厳密に言えば、ばあちゃんだけが、
“無かった”。
僕が目にしたのは、
ばあちゃんの、脱け殻……。
まるで、さっきまでそこにいたのに、
一瞬で消えたとしか思えないような……
立ったままの、
ばあちゃんの割烹着と、もんぺだった……。
“亡くなってた”んじゃない。
あれは、
“無くなってた”んだ。
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