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「--…キ、ロキ!」
穏やかな日の光と心地よい風。それらに身を任せて横になっていた少年に、一人の男が声をかけた。
大国ネルタの首都オリュムポス。その中心に建っている城の中で此処は唯一街を一望できる場だ。
「あのさ、そんなに大きな声出さなくても聞こえてるから」
「じゃあ返事くらいしてくれよ…」
「で?用件は?」
「・・・」
寝転んだままでこちらと会話をする気もない。
だからと言って声をかけた男は怒る気などはなかった。毎度の事過ぎて腹を立てる気にもなれない。目の前に寝転んでいる少年はいつもこうなのだ。
「ロキの補佐になる予定の二人が到着したそうだ。とりあえず顔合わせを行うから北搭に戻れってよ。…セイ将軍に頼まれたんだから早く来てくれよ」
「気が向いたら行く」
そう一言だけ返事をするがこちらを向く様子もなければ動く気配すら見せない。
そんな様子の少年にため息をついて、男は元居た場所へと走って戻っていった。
そこに一人残された少年は暫くそのまま寝転んでいたが、少しすると起き上がって空を見上げると小さく笑った。
白い肌に光が当たり、尚更白く見える顔。その白さから一本のびた傷が良く目立つ。
「俺の補佐、ねぇ」
”気が向いた”のだろうか。
静かに一人で呟くと、少年は立ち上がって先ほど男の歩いて行った方向へと歩き始めた。
黒くて長い髪がさらりと風になびく。
細いそれらを鬱陶しそうに一つに束ねながら、少年はゆっくりと歩いた。
城内を歩く兵士達は慌ただしく動き回っているというのに、少年は気にした様子もなくゆっくりと廊下を歩く。
だが兵士達は少年を見かけると敬礼をし、そそくさと離れていった。
「…おや、珍しいですね」
そんな少年に声をかけた一人の男。モノクルをかけ、白い服がよく目立つ。彼は笑いながら、少年の隣に並んで歩いた。
「ロキが自分から来るなんて。…そんなに退屈だったんですか?」
「空眺めるのも飽きてきたしな」
「また君らしい理由ですね」
そんな会話を交わしながら、二人はある部屋の前に立った。大きな扉の中からは、何やら話声が聞こえてくる。
「さて、僕はロキを呼ぶよう言われていただけなので」
「入らないわけ?」
「仕事途中ですから。セイによろしくお伝えください」
「はいはい」
そう言って少年から離れて行った男。 残された少年はノックをする事もなく、大きな扉を開けた。
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