雨の記憶

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ハルトが欲しがらないので、俺はハルトが一口食べたきりのぬるいゼリーを、同じスプーンで食べた。 「風邪、うつっちゃうよ」 「平気だよ」 言いながら俺は、うつせるものならどうかうつしてくれと思った。 抵抗力の落ちきったハルトがかかるような風邪は、普通の健康状態の人間にはあまりうつらない。 少し寒い日があったくらいですぐに引いてしまう風邪もそうだが、それよりももっと根本的な、ハルトの身体の中でハルトを蝕んでいる病を、俺は全て自分にうつして欲しかった。 ハルトが心配するまでもないどころか、俺がどんなに望んでも、それを俺が代わりに引き受けられることはなかった。 冷えたゼリーがハルトの細い喉を通り抜ける瞬間、一瞬でも熱に浮かされた彼のほてりを冷ますことができることに嫉妬するくらい、ハルトの内にある敵を前にして、俺は無力だった。
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