雨の記憶

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地上に留めておくには、ハルトはあまりにも無垢で危うげだった。 神様はそれから間も無くハルトを自分の元へ連れて行ってしまったが、その時のハルトの白い顔は、言葉にすると穢れてしまいそうなほど、いっそう美しく俺の目に焼きついた。 梅雨の時期は、毎年容赦なくあの時と同じようにやってきた。 俺の記憶はその度に洗い流されて、鮮やかさを増していった。 そして、そんな雨の合間の澄み渡るような青空の日には、俺の名前を呼ぶ、ハルトの掠れた甘い声が聞こえる気がした。 俺たちの呼吸は、かつて別々の身体で別々になされていたが、今は共に俺の中にあった。 ハルトは確かに、俺の中に生きている。 ハルトがくれた永遠が、俺と共に生きている。
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