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「僕は君とはもうつきあっていけないよ。別れてくれ」
宮田敦が言うと、堂島まりえはハトが豆鉄砲をくらったような顔になった。
「何で? 他に彼女とかできた? 私にどこか悪いとこあった? 何でも言って」
つめよるまりえに敦は、
「だからさ、そういうと、こちょっとうざくなったっていうかさ」
言葉は濁していたが、別れたいオーラが顔にはっきり出ていた。
「わかった。後悔しても知らないからね」
と、啖呵をきり、あっさり別れたものの、まりえにとってその後遺症は大きかった。
高校のテニスサークルで知り合い付き合い初めて3年。同級生もうらやむカップルとして順調な交際を続けてきた。大学は別々になってしまったが、付き合いは続いていくものだと思っていた。しかし、入学して一週間でこの仕打ち。まりえは誰をみても敦に見えてしまい、口数も少なくなり、勉強にも身が入らなくなり、学校も休みがちになっていった。
幸い、親と同居していたので、見かねた母親が「気分転換でもしてきたら」
と言ってくれて、まりえは名古屋在住の母の姉の家に行くこととなった。
「わかったよ。こんな家、出ていってやる」
坪井信吾は啖呵を切り店を出て行く。
「おい、待て」
坪井武が制するのも聞かず、信吾は東仁王門通を西に向かい走っていった。
「ったくよ。バカ息子が。ろくに話も聞かず」
武はイライラしていた。
「親父さん、またこれですか?」
アルバイトスタッフの矢部は笑いながら、両手の人差し指をばつにする。
「すまんな。いつも見苦しいところをみせて」
「気にしないでくださいよ。親子喧嘩ができるうちが華ですよ」
「なんだ、てめえ若いのに悟ったこと言いやがるな」
矢部は頭に手をやりでへへとにやついている。そこへ信吾が舞い戻ってきた。
「ほら、もう帰ってきましたよ」
「忘れ物取りにきただけだよ」
「おい」
と武が言うのも聞かず、信吾は店の奥にあったショルダーバッグをひっかけて再び出て行く。
「信吾さん、早く帰ってきてくださいよ」
「親父が譲歩したらな」
と、信吾はドヤ顔でいい、再び家を出て行く。
「親に向かってその口の聞き方はなんだ!」
武は空に届く様な大声で叫んだ。
坪井家は、大須の東仁王門通に「大須Basis」という名前の古着屋を構えている。今でこそ、古着屋の店舗数は増えたが、坪井家が古着屋をオープンした当初から70年になる。信吾で3代目だ。
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