これは、ちゃんと

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うく、と引きつりそうな喉を抑えて少しぎこちなくへにゃ、と笑った。 「ん?亜美?」 なあに。 少しは自然に笑えたのだろうか。 どこかホッとしたように頬を緩めて、殊更おどけたように声を上げる。 「どうしたのかなって、思って!」 ぽわん、抜けたように笑う。 心配してても笑ってくれるのは、亜美の気遣いだ。 亜美は優しい。 とても。 だから、言えない。 言えやしない。 「…どうしたって、ふふ」 困ったなあ。 そういいたげな顔をして笑う。 ここでなんでもないよ、なんて言ったら、亜美はもっと心配する。 わかってる。 亜美のことならなんでも。 わかってるつもりだった。 「それがね、」 一呼吸置く。 言い訳を考える時間だ。 声は震えない。 亜美を心配させるなんてバカなこと、したくない。 「うん」 話を促すような亜美の声は優しくて、ああやっぱり心配してくれているんだと、泣きたくなった。 「昨日、かあさんと喧嘩しちゃって。ほら、昨日母さん誕生日だったのに」 それで、かなしいなあって。 「ああー。やあちゃん、お母さん思いだもんね」 目に見えて明るくなった亜美に、嘘をついたことへの罪悪感がしくしく鳴き声を上げる。 いたい、いたい、いたい。 「うん、まあね」 照れたように笑って見せて、ちょっと落ち込んでた、なんて付け加える。     
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