マナ

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「マナ…」 僕は、走って行くマナを追いかける。 草が、波の様に揺れる。懐中電灯で所々照らされたマナの裸体は、まるで、波の中で、現れては消える、白い魚のようだ。 雨は止んだ様で、それでも、水の粒が、頬にあたる。風に揺れる草の葉先から飛んで来る水滴なのかもしれない。 「待って…」 僕は、懐中電灯で走っているマナを照らしながら、言う。 マナは、立ち止まり、振り返ると笑みを浮かべ、また走り出す。 僕は、雨で土がぬかるみ、足を取られる。逆に、マナは、真っ黒い草の海を魚の様に泳いで行く。 草の葉が、ざわめいた。風がざっとなった。 マナを捕まえなくてはいけないと思った。見失うと、このまま消えてしまうのではないかと、海の泡になってしまうのではないかと感じた。 僕は、マナの手首をつかもうとしたが、寸前のところで掴み損なう。 「あぁぁ…」 僕は、大きくため息をつく。 「待ってくれ」 草の青臭さの匂いに混じって、潮の匂いが強くなって行く。 草原を抜けたマナは、立ち止まり海を眺めている。 月明かりに照らされて、裸のマナと海が輝いている。 僕の方を向いたマナの瞳は潤んでいて、僕に向かって、何かを言った。 偽物の草の海の中で 、僕は、マナの動く唇と微笑みを見ていた。草の揺れる音と、風の音と、波の音にかき消されて、何を言ったのかわからなかったが、マナを綺麗だと思った。 そして、本当の海を目にして、マナが海の中に消えてしまわない様に、泳いで行ってしまわないように、側に行ってギュッと抱きしめたいと思った。
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