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§1 幽霊・その1
暗い部屋の片隅に、影があった。
闇の中にあってなお、光を吸い込むように暗く、そのために却ってはっきりと迫る存在感があり、しかしその形ははっきりしない。
それでもそれは、確かにそこに存在していた。
まるで闇に飲まれまいとするように、より暗く、より深く、自らの存在を主張する。
私はそれに、何事か言葉を投げかけた。しかし、その声はそれに届いていないようだった。あるいは、聞こえない振りだったか。
目が慣れてくると、そこは部屋ではなく、茂みのようなものに囲まれた場所だった。
縦横に広がる巨大な木の枝や蔦のようなものが、茂みの外、遥か遠くまで伸びている。閉じ込められているようであり、閉じ込められていないようでもあった。
その中にあって、それはやはり、影としてそこにあった。それは、木の葉にしがみつく芋虫のように、茂みの隅に蠢いていた。それは世界そのものにこびりついた、落とすことのできないシミのようだった。
私は影の名前を呼んだ。
影は応えた。
だがそれは、意思を伴う返答の言葉ではなく、食虫植物の捕食反応のように、決められたプロセスを繰り返すただの現象のように見えた。
それでも、影は私に、はっきりと言葉を告げた――
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