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§3 死者
「せんぱーい、あっちの方みたいですよ」
構内の案内板を見ながら、那穂が方向を指し示した。都内の私立大学の中でも、ここ城北大学のキャンパスはなかなかの広さを持っており、目的の教室を見つけるのに骨が折れる。
「学校なんて久しぶりでテンション上がりますね」
「呑気なこといってる間に、もう講義始まるぞ」
「あー、なんかそういうのも久しぶり」
目的の講義は、その世界では権威であるという森脇という教授によるものだった。先日、無事に提出したレポートを読んだ橋ノ井がその後、「技術畑の偉い人」に話を通したところ、MKラボにぜひ紹介をしたい、ということで、今日の公開講座の後で面会をすることになったのだった。橋ノ井さんは用事があるとかで、講義の後に合流する予定だ。
どうやら公開講座の開かれる教室は、中庭を挟んで反対側の棟にあるらしい。ふらふらと目移りしながらも先を駆けていく那穂を追うが、身体がだるい。
あの夜の出来事は、ラボの面々にも結局報告していない。なにしろ荒唐無稽すぎて、自分でも夢を見ていたんじゃないか、という思いがぬぐえずにいたからだ。
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