王宮魔道士の記憶

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 ざあざあと雨音がしていた。  光っては消える雷は、一瞬眩く光ったかと思うと、ひっさげてきた爆音を鳴らす。  体にまとわりついたびしょ濡れの服のせいだろうか。異様に体が重たい。床は、俺が持ち込んだ水で濡れている。苦手な雷の音は遠ざかろうともせず、爆発音をたて続けている。  いや、今は天気のことなどどうでもいい。俺はここで、師匠の魔道アトリエで、きちんと確かめなければならないことがある。  目の前いるのは、黒いネコマタと師匠の一人娘。ネコマタは必死に幼い少女の手をなめている。  俺がただいまと言うと、少女の瞳は本から俺へと向けられた。  いつもはおかえり。と元気よく言っていた少女が、今日は笑いもせず俺を見ているだけだ。やはり、こんな幼い子どもには酷だったのだろうか。目が座っている。 「今日からは、俺が……」  俺は少女をなでた。少女の虚ろな瞳は本を見つめている。  ぽたりと水滴が落ちた。  それは、彼女のものか。雨か。俺の瞳からこぼれ落ちたのか。
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