1.8月12日

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「司、ウチ寄って行くでしょ?」 「直帰する」 「ふーん?ぬか漬けと、一ヶ月前に仕込んだジンジャービア、美味しく出来たんだけどなぁ~。ああ、あと冷やし甘酒もあったけ?」 指折りながら意味深な目つきで、思わせぶりな声を掛けて来る。 (だれが、毎度毎度食い物につられるかッ) 目を閉じて、ひたすらだんまりを決め込んだ。 「・・・なんなら、お昼ごはんカレー作るよ?夏はカレーだよねえ」 ぐうぅと腹の虫が鳴る。考えとは裏腹に身体は正直だ。 補習内容自体は難しくなくても、頭を使っている事に変りはないし、余分な現象のせいで精神もカラダもふらふらなのだから。 * * * 住宅街を抜け、交通量の多い大通りを過ぎ、またしばらく歩いて。 辿り着くのは森を背負ったちいさな平屋建て。 古すぎて、いつ建てられたのかは最早不明らしい。 ザワザワと屋根の後ろから、木々が騒ぐ。司は、目を細めた。 重そうな巻き込むような転げる金属音。 シャッターを持ち上げ、千加は木製の引き戸に古めかしい鍵を差し込んだ。 「あ、あれ?もォ、雰囲気は合ってても、役目は果たしなさいよぉ!」 硝子には黄色いペンキで書かれた、『駄菓子屋 松ぼっくり』の文字。 しなりの入った木枠内の硝子がガタガタ唸る。経年劣化の鍵穴は、なかなか頑固ならしい。 「貸して」 千加から鍵を借りると、司が鍵穴を回し、引き戸を左にスライドさせた。 「・・・・・・なんでアンタだと開くのよ」 「鬼の形相してるからじゃないの?」 じとっとした目の千加に、司はしれっと答えた。 彼女について、店に入りガラス戸を閉めた。
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