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「司、ウチ寄って行くでしょ?」
「直帰する」
「ふーん?ぬか漬けと、一ヶ月前に仕込んだジンジャービア、美味しく出来たんだけどなぁ~。ああ、あと冷やし甘酒もあったけ?」
指折りながら意味深な目つきで、思わせぶりな声を掛けて来る。
(だれが、毎度毎度食い物につられるかッ)
目を閉じて、ひたすらだんまりを決め込んだ。
「・・・なんなら、お昼ごはんカレー作るよ?夏はカレーだよねえ」
ぐうぅと腹の虫が鳴る。考えとは裏腹に身体は正直だ。
補習内容自体は難しくなくても、頭を使っている事に変りはないし、余分な現象のせいで精神もカラダもふらふらなのだから。
* * *
住宅街を抜け、交通量の多い大通りを過ぎ、またしばらく歩いて。
辿り着くのは森を背負ったちいさな平屋建て。
古すぎて、いつ建てられたのかは最早不明らしい。
ザワザワと屋根の後ろから、木々が騒ぐ。司は、目を細めた。
重そうな巻き込むような転げる金属音。
シャッターを持ち上げ、千加は木製の引き戸に古めかしい鍵を差し込んだ。
「あ、あれ?もォ、雰囲気は合ってても、役目は果たしなさいよぉ!」
硝子には黄色いペンキで書かれた、『駄菓子屋 松ぼっくり』の文字。
しなりの入った木枠内の硝子がガタガタ唸る。経年劣化の鍵穴は、なかなか頑固ならしい。
「貸して」
千加から鍵を借りると、司が鍵穴を回し、引き戸を左にスライドさせた。
「・・・・・・なんでアンタだと開くのよ」
「鬼の形相してるからじゃないの?」
じとっとした目の千加に、司はしれっと答えた。
彼女について、店に入りガラス戸を閉めた。
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