1.8月12日

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千加は無言のまま台所へ向かうと、朱色のエプロンを装備しおもむろに冷蔵庫から、ニンジン、タマネギ、ジャガイモと基本の野菜。 冷凍室からは、密閉袋に入った肉を掴みだした。 シンク台の上に木のまな板をバンッと叩き置くと、手始めにニンジンの袋を破く。 口を閉じていたカラーテープが弾け飛んだ。 ダン、ダンと木製の断頭台。円錐型の橙色が不規則なカタチで、ごろりと転がる。 「にんじん、デカすぎだろッ!!」 司の悲鳴混じりの抗議に、 「おろし器ならソコに入ってるよー」 断頭台の刃を一旦置いた千加が右の引き出しを指差す。 納得は行かないが、司は朱色の腰のリボンの後ろを通って、おろし器を取り出した。 斜めの切り口を握りしめて、無数の穴が開いた面に押し付けた。 密度が高い橙色は、手を上下させる度、ジャリジャリ煩く、甘臭い匂いを出す。 丸々一本分細粒化するのは、骨が折れる。 頭に近づくにつれて、芯が太く固くなっていて、なかなかカタチを失くさない。 手首と肘の間、手に近い方の部分が怠くなってきた。 動作音より、腹の虫の方が喧しくなり始める。 「手、止まってるよー」 うれしそうなトナリの声に腹の底がイラつく。 バラバラになった橙色は、ボウルに小山を作っている。 それと同じくらいの大きさに切ったジャガイモが水の入ったボウルに沈められ、タマネギは半月切りでバットの中に収められていた。 今は凍った肉をひと口大にザクッザクッと切っている。 「早くすりおろさないと、夕飯になっちゃうよー」 断頭台の主が忠告する。 「悪かったって」 強制労働に司は、ギブアップの声を上げた。
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