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俺の曾祖父は、山伏だった”らしい"
詳しくは知らない。誰も曾祖父の話はしたがらないからだ。
面識のない俺ですら、彼に対していい印象は持っていない。
隔世遺伝なんて迷惑極まりなかった。
(暑い―――・・・)
蝉がここぞとばかりに、残り僅かの生命を燃やして鳴き叫んでいる。
それこそ、こちらの集中力を吸い掻き乱すくらいに。
熱を溜め込んだコンクリートボックス。
短い夏休みの貴重な一日を、ただ椅子に座って、時間が過ぎるのを待ちぼうけていた。
「雨宮(あまみや)―、補習くらい真面目に聞いとけー?」
チョークでコンコンと黒板の公式を示しながら、汗だくの教師が名指する。
「ここ解いてみろー」
ガタッと立ち上がり、答えると教師は面白くなさそうな顔をして、授業を続けた。
立ち上がるのも億劫だけど、何となく義務教育が開始した年齢からの癖は、今更抜けはしない。
「さっすが、司」
トナリから、蒸し暑い教室にそぐわない、明るい声が飛んだ。
(なんで、今日も居るんだよ)
彼女が、この教室に居るのは、どうやっても不自然だ。
特に返事はせず、司は手元のノートに視線を落とす。
「コラ、無視するのは感じ悪いぞ!」
「小松原―、おまえ3年だろー。なんで雨宮の補習に出てるんだー」
紺色のタオルハンカチで汗を拭く教師の声が、むあっとした中に同化する。
「一年まえの復習の為でーす!」
黒髪のポニーテールを跳ねさせ、彼女は答えた。
その声は溌剌としていて、声だけ聴けば、これが蒸し風呂状態の教室の中なんて気が付かないだろう。
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