1.8月12日

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俺の曾祖父は、山伏だった”らしい" 詳しくは知らない。誰も曾祖父の話はしたがらないからだ。 面識のない俺ですら、彼に対していい印象は持っていない。 隔世遺伝なんて迷惑極まりなかった。 (暑い―――・・・) 蝉がここぞとばかりに、残り僅かの生命を燃やして鳴き叫んでいる。 それこそ、こちらの集中力を吸い掻き乱すくらいに。 熱を溜め込んだコンクリートボックス。 短い夏休みの貴重な一日を、ただ椅子に座って、時間が過ぎるのを待ちぼうけていた。 「雨宮(あまみや)―、補習くらい真面目に聞いとけー?」 チョークでコンコンと黒板の公式を示しながら、汗だくの教師が名指する。 「ここ解いてみろー」 ガタッと立ち上がり、答えると教師は面白くなさそうな顔をして、授業を続けた。 立ち上がるのも億劫だけど、何となく義務教育が開始した年齢からの癖は、今更抜けはしない。 「さっすが、司」 トナリから、蒸し暑い教室にそぐわない、明るい声が飛んだ。 (なんで、今日も居るんだよ) 彼女が、この教室に居るのは、どうやっても不自然だ。 特に返事はせず、司は手元のノートに視線を落とす。 「コラ、無視するのは感じ悪いぞ!」 「小松原―、おまえ3年だろー。なんで雨宮の補習に出てるんだー」 紺色のタオルハンカチで汗を拭く教師の声が、むあっとした中に同化する。 「一年まえの復習の為でーす!」 黒髪のポニーテールを跳ねさせ、彼女は答えた。 その声は溌剌としていて、声だけ聴けば、これが蒸し風呂状態の教室の中なんて気が付かないだろう。
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