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「オレは、何もしちゃいねーぜぇ?ただ見てただけ」
「じゃあ、アレは・・・。どす黒い渦は何なんだよ?」
必死で男に喰らい付いた。蟀谷を汗が伝う。背中だって制服がべったり張り付いているし、握りこぶしは爪が食い込んで、手汗が溢れていた。
「イッテンシカイ」
提燈の灯が消えるまで、神の社に近づいてはならないよ
イッテンシカイに連れてかれるよ
息を潜めて、家に籠ろう
提燈の灯を消すまでは
カタチばかりの言い伝えが、脳みそを直撃する。
「盆入りから盆明けまで、ココには近づくな。イッテンシカイに連れて行かれる。ここいらのガキどもは、そう教えられてるんだよなぁ?」
「イッテンシカイって、いったいなんなんだよ・・・」
「通常おまえらが感知する事のない、もうひとつの世界。無限に沸き立つ泡沫が、殆どぶつかる事がない様にな。だが、ある一定の期間だけ、そのふたつが、まぐわう。水面に浮かんだ別々の泡が、ぶつかって、ひとつになる様にな」
男・妖怪は銀煙管を持った手を回して、祠の祭られているスペースを指し示した。
「ここがその入り口。3日間だけ繋がり、ひとり人間を喰っていく」
それが、この地域の神隠し。
「ホントはおまえを喰う気だったらしいがな」
散らばる小銭を見つめながら、司は項垂れた。
(アイツは、もう戻ってこない?)
『攫われた』ではなく、『喰われた』
つまりは、もう姿形も無いっていう事としか解釈出来ない。
「はぁー、青臭ぇーなぁ!!オマエ、こんなトコで油売ってていいのか?後悔してもしらねぇぜぇ?」
妖怪は試すような口調で、煙を燻らせる。
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