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「『喰った』っつっても、糞になるワケじゃあねぇぞ。少し変わったかもしれねぇがな」
「生きてるって言うのか?」
「確かめたきゃ、オレに付いてきな、クソガキ」
妖怪は適当な場所に、ふっ、と息を吹きかけた。
じわん、と木の幹と枝葉しかない空間が歪んだ。
ズズ、と妖怪は歪んだ空間に、暖簾を通る感じで入って行った。
怪奇現象を目の当たりにしてきた司だったが、当たり前の不可思議な動作に、あっけに取られていた。
「グズグズすんな、クソガキ~」
歪んだ空間から、妖怪の苛立った声がガラス越しみたいな大きさで聞こえる。
司は、歪んでいる空間の前に立ち、右手を伸ばした。
指の腹が触れると、水面の様に波紋が広がる。粘り気のある液体に近い。
人差し指を入れれば、強い吸引力で腕が持って行かれそうになる。
騙された?!!と後悔が過った。
「さっさとしろ~、クソガキ!!」
さっきよりも、淀みなく妖怪の苛立ち声が耳に入った。
踏ん張っていた足で、石畳を蹴って、司は歪みの向こうへと消えた。
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