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教師は、あからさまな溜息をつくと、黒板へ向き直った。
真面目、な回答にも当てはまる為、追い出す理由が見つからない様だ。
べたりと額に張り付く前髪を無理矢理無視しながら、司は黒板の文字を写した。
扇風機が回っているとは言っても、
じりじりと焼ける日差しは、カーテン越しに熱を送って来る。
やや砂っぽい机に腕が密着して、手の下にある紙は体から滲んだ汗を吸ってたわむ。
額にも背中にも鳩尾にも、大きなシミが滲んでいく。
ちらり、と右を見れば、小松原千加がノートを写している。
首には猫柄の手ぬぐいを掛けて、時折流れる汗を拭いていた。
すこし、小麦色に染まった肌を雫が流れていく。
教室内を循環する風に甘い香りが混じる。
ジブンとは違う、彼女の匂い。
日一日と未知の存在に近づいていくコイツに、気持ちがザワつく。
いつから、男女の境目は、くっきりとしていくんだろう。
暑さに流されて、アタマは不埒な考えで充満していく。
「司、ちゃんと水分摂んなさいよ」
「わかってるよ」
そう言い、彼女は持参した水筒の麦茶をこくこくと飲んだ。
夏は麦茶・冬はウーロン茶が幼稚園時代からの習慣だ。
そういう所は変わり映えしないというのに。無意識、桃色の唇に釘付けになってしまう。
「麦茶飲みたいの?」
凝視していた事に気付き、彼女の茶色い瞳が俺を映した。
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