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千加が、白塗りに目張り、紅を差した唇。
結髪を飾る、豪奢なべっこうの簪。
金銀刺繍が施された着物に、まな板と呼ばれる巨大な前結びの帯。
不覚・不謹慎にも綺麗と思ってしまった。なんか女子が化粧化粧騒ぐのが若干解った気がした。
「この子、あんた目当てで、ウチに身売りしたんよぉ~。あんひとのツケ払いのカタに」
「あらぁ~、おにぃさん、可愛いわぁ~」
正座する司に花魁姿の千加が色気を含んだ眼差しを向ける。
(コレほんとに千加ッッ??)
猫撫で声に廓コトバ?
いつもの小姑感丸出しのとは180度ちがう?
キャバクラでおねーさんに絡まれた男子高校生状態だ。
「おなまえ、なんと言うんでありんす?」
「つ、つかさ・・・、です」
なんで、コイツ相手に緊張してんだ、と突っ込んだ。
見た目が変わるだけで、こんなにも別人に見えてしまうのだろうか?
でも、あながち今は『全くの他人』と言っても間違ってはいない。
「ツカサちゃんいうん?可愛いおなまえ」
(俺の事が分からない?)
静かな衝撃は、確実に心を抉った。力の入らない足でも、廊下の床板はギシリと音をさせる。
「そうそう、あんひとの事だから言い忘れてただろうけど、最後の日にならなくても、水揚げが終わったら、すべて水の泡よ」
「えッ―――!?」
「まぐわうって言うのは、そういうもんよ。身体の内側から、染まるんだからね。昔からの習わしみたいなモンやから、ワケは考えた事ないけど、連れてこられたニンゲンは、全員前居たトコの事忘れてるんよ」
(だから、一番強い感情を思い起こさせろって事なのか?)
「まぁ、ウチはどっちに転んでも構わんよ。李ちゃんが水揚げしても、なんもかんも忘れたまんまでも」
(後、二日・・・)
絶望しか見えない暗闇をもがくことすら、出来なかった。
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