第4章・8月15日

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どうやら、布団ごと力任せに蹴飛ばされたらしい。背中に襖が当たっている。 千加を連れ戻そうと、得体の知れない妖怪について、イッテンシカイにやってきたのだと寝起きの頭が思い出す。 昨日は、千加の花魁姿を見た後は、今寝ている部屋に案内されて、絶望で満タンの頭を支えるのがキツくて、さっさと煎餅布団に潜り込んだのだ。 布団を畳んでいると、別の鬼がやって来た。 「コイツが新入りかァ?こんなひょろひょろに仕事が出来んのかァ?」 「女将さんが雇い入れてんだ、使いモンになんなきゃ、賽の目切り刻んで池に景気よくばら撒くだけよ。オラ、メシだ、とっとと来いよ!!」 司にあてがわれた部屋は店の裏側に面していて、表からは全く見えない場所にある。 やたら広いこの建物は、すべての部屋が同じに見えてしまい、鬼の後を付いて行かなければ、昨日妖怪と通った夜道同様迷ってしまいそうだ。 それにしても、朝だというのに暗い。 ぎしぎし床を鳴かせる鬼の巨大な脚。ヘタをして怒りを買えば、池の化け物魚の餌になる前に、粗暴なコイツらの憂さ晴らしで殺されるのが必至だ。 なるべく逆らわないようにするのが最善と考えていた。 不意に、開いた窓から見える空に、 (え?なんで、寝た筈なのに) 昨晩から時間が止まったとしか言いようがない程、同じ紺色の空が広がっている。 身を乗り出して確かめていると「オラ、なに空なんか見てんだ!!」鬼の怒声が飛んだ。 「僕が寝てから何時間経ったんですか?」 「オラ、まだ寝たんねーとか抜かすのか?子から卯まで寝てたくせによぉ!!」 子の刻から卯の刻。 つまりは、午前0時から午前6時まで寝ていたと言う事だ。 睡眠時間的には、最適な長さとは言えないが、それなら既に明るくなっててもいい時刻だ。 「日が昇っていませんが・・・」 「ここにお天道様なんて、御大層なモノはねぇんだよォ」 飽きれた声で、人間の世界ではない証明が突き付けられた。
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