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食事の後、与えられた仕事は、客人の通る中庭に面した巨大な正方形の廊下の雑巾がけだった。
雑巾がけなんて、小学生以来か。
かなり腕に来る。
小休止しながら突っかかるボロ布を必死で前に前にと押した。
鹿威しが空虚な音と奏でるのと一緒に、池の中の化け魚が、餌もないのに、巨大化して、司を食い入る様に熱烈な視線を送って来る。
(誰が、魚のエサになんかなるか)
捕食対象として見られている視線を不快に思いながらも、雑巾がけに集中した。
単純な作業は、逆に頭を働かせてくれたらしく、きのうのことが整理され、自分なりの解釈がまとまった。
イッテンシカイは、人間の世界のすぐそばに横たわっている所謂平行世界で通常、近からずも遠からずだが、8月13日から8月16日の間だけ、松ぼっくりの裏の神社と繋がる。
その3日間だけ、泡と泡がぶつかって一つの泡となるように交わる事がある。
その入り口に喰われてしまうのが、『神隠し』と言われているのだと―――。
神隠しに遭った人間は、元の世界の記憶が無い。
連れ帰るには、『一番強い感情を呼び起こさせるしかない』。
また、この遊郭に居る千加は水揚げが終わったら、ゲームオーバー。
16日を迎える前に、帰れない事だ決定してしまう。
(いちばん強い感情って言ったって)
何が千加にとって、一番強い記憶なのか、幼馴染である自分だって分かるわけない。
無駄、と言えるくらい、長い時間一緒に過ごしてきた。
だからこそ理解し過ぎる。
男と女の違い。
昔は気付かなかった、幼馴染とは別の、欲を孕んだなるべくなら気付かれたくない感情。
もう、何年も、アイツの名前を口にしていない。
気恥ずかしさばかりが先行して、短いアイツの名前が呼べない。
あっちは、相変わらず自分の名を呼びまくるのに。変わらず。
こんな気持ちになっているのは、自分だけなのだろうか?と胸が締め付けられる。
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