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「平気です、花魁。ありがとうございました」
表情とかは、以前のまんまなのに、コレは千加じゃない。
長く根付いた深い部分で、今、自分の知っている幼馴染は居ないんだと。
思い込もうとしているワケじゃなく、自動的に思ってしまう。
「雑巾掛け、ご苦労様。ココの廊下は長いから、疲れたでしょ?此れでも食べておくんなし」
花魁は、袂から懐紙に包まれた金平糖を出す。
「いえ、結構です」
正直、あの量の朝食で腹が膨れてはいないが、受け取る気にはなれなかった。
途端、花魁の目尻が更に下がった。合わさりかけた上瞼と下瞼から雫が落ちそうになっている。
コンッと固く細い金属が頭の天辺を叩いた。
「いったッ、煙管でぶつなよ!」
「アホ!!商売モンを泣かす気かてめーは!!」
頭上から煙管妖怪の怒鳴り声と、灰が降って来る。
横を見れば、花魁が肩を震わせて涙を堪えていた。
「オマエ、化粧の直し方知ってんのか?泣くと瞼が腫れて、客に見せられるカオじゃなくなるだろ。ただでさえ弱っちぃ人間が己の立場悪くするとか、死にてーのかクソガキが」
「す、すみません花魁!!ありがたくイタダキマス!!だから泣かないで!!」
「ツカサちゃんはイイコでありんすね!!いつでも、わっちの部屋に遊びに来ておくんなしぃ!!」
さっきまでの泣き出しそうな顔はどこへやら・・・。
ぱっと花が咲いたみたいな顔が目の前に出現している。
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