第4章・8月15日

7/17
前へ
/73ページ
次へ
「平気です、花魁。ありがとうございました」 表情とかは、以前のまんまなのに、コレは千加じゃない。 長く根付いた深い部分で、今、自分の知っている幼馴染は居ないんだと。 思い込もうとしているワケじゃなく、自動的に思ってしまう。 「雑巾掛け、ご苦労様。ココの廊下は長いから、疲れたでしょ?此れでも食べておくんなし」 花魁は、袂から懐紙に包まれた金平糖を出す。 「いえ、結構です」 正直、あの量の朝食で腹が膨れてはいないが、受け取る気にはなれなかった。 途端、花魁の目尻が更に下がった。合わさりかけた上瞼と下瞼から雫が落ちそうになっている。 コンッと固く細い金属が頭の天辺を叩いた。 「いったッ、煙管でぶつなよ!」 「アホ!!商売モンを泣かす気かてめーは!!」 頭上から煙管妖怪の怒鳴り声と、灰が降って来る。 横を見れば、花魁が肩を震わせて涙を堪えていた。 「オマエ、化粧の直し方知ってんのか?泣くと瞼が腫れて、客に見せられるカオじゃなくなるだろ。ただでさえ弱っちぃ人間が己の立場悪くするとか、死にてーのかクソガキが」 「す、すみません花魁!!ありがたくイタダキマス!!だから泣かないで!!」 「ツカサちゃんはイイコでありんすね!!いつでも、わっちの部屋に遊びに来ておくんなしぃ!!」 さっきまでの泣き出しそうな顔はどこへやら・・・。 ぱっと花が咲いたみたいな顔が目の前に出現している。
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加