1人が本棚に入れています
本棚に追加
開店した遊郭は大賑わいで、怪しげな客が大勢押し寄せていた。
昨日は気付かなかったが、千加の他にも、沢山の遊女や、花魁がいるようだ。
司は、一番上等な客室に居た。
目の前には、
「ツカサちゃん、約束守ってくれて~、ホントイイコでありんすね~!!」
コロコロ笑う、花魁姿の幼馴染が居た。
「李さんは、いちばんの花魁なんですよね?だったら、なお一層、お部屋は綺麗にしておかないと。塵と埃は人が動く度に宙に舞って、目に見えなくても溜まって行きます。なので、常に花魁を美しく見せられるよう、じぶんを近くに置いてください」と、桃に土下座をしたのだ。
・・・我ながら、よくそんな交渉が出来たと思う。
「お菓子、たぁ~んと召し上がれ」
脚付きの漆塗りの菓子器には干菓子が盛られている。
「いただきます」
さっきみたいに泣かれたらたまったもんじゃない。
学習を生かして、勧められるまま花の形をした固められた菓子を齧った。
見た目は堅そうでも、口に入れた瞬間、しゅうっと消えていく。
上品な甘さが後味が心地よい。
「花魁は・・・」
「李って呼んでおくんなんし」
「李さんは、遠い国のお話は好きですか?」
「聞いたことないお話は、聞きたいでありんす」
「きっと、初めて聞く話だと思います」
司は、自分が覚えている千加との思い出を、取り敢えず聞かせてみることにした。
あれは、千加の、死んだペットの猫の一件の後くらいにあった事。
母親からは、千加とは遊ぶな、としつこく言われたはいたが、視える事を隠さずにいられる千加と、千加の祖母には、自然と心を開いて行っていた。
放課後、校門を出ようとした時、また視えてしまった。
多分、子供の霊の類。
警戒心が備わっていない、小学生の司は、またうっかり話しかけてしまった。
「どうしたの?」
相手は何も答えない。司は座り込んで、もう一度話しかけようとした。
「あいつ、なんにもいないのに話しかけてるー!!」
「変なやつ~!!」
現実の声が、また心を突き刺していく。
ああ、いけない。ふつうは視えないだった、と。ガタガタ震えながら自己否定が始まる。
「オイー、なに、門に話しかけてるんだよー!!」
最初のコメントを投稿しよう!