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どこから入って来たのか、おかっぱ頭の小学生くらいの浴衣を着た女の子が教室の隅っこに立っていた。
こっちには来るなよ、と心の中で念じた。
必死に黒板へと意識を向け、教師の説明・一挙手一投足・一言一句に全神経を集中させた。
一旦目線をノートに戻す。
「ッ??」
アッと出かかった声を必死で飲み込み、息だけを吐いた。
おかっぱ頭の女の子が、机の前で手を置いてこちらを見上げている。
熱を放射させる汗の群れを割って、ヒヤリ別の汗が滑っていく。
ドッドッドッド、とじぶんの心臓の音が嫌に大きく聞こえる。
「お~い、雨宮!!どうした?次、ここ答えてみろー」
遠くに聞こえる感じの教師の声。
ハッとなり、立ち上がった。
その間にも女の子はずっと居座っている。
「ソレ、は―――・・・」
女の子の気配に気を取られて、黒板を先取りするのを忘れた。
答えようとしても、思考が凍り付く。
(ヒッ―――?!!)
思考に遅れて、手首に氷水を当てられた感触。
ガタガタ揺れる瞳を下げれば、おかっぱの女の子が自分の右手首を掴んでいた。
軽く添えられている程度にしか見えないのに、振りほどこうとしても万力で押さえつけられたように一ミリも動かせなかった。
氷の手錠を嵌められたような。
さっきまで脳みそが沸騰しそうだったのが、一気に冷凍庫へ放り込まれた状態になった。
(たのむから、邪魔するな!)
貴重な夏休みを潰されてしまう前に、なるべく必要分の補習を終わらせたい。
その為には、余分な精神をすり減らしたくない。
時限爆弾を仕掛けられたかのように、パニックで脳みそがガタガタ揺れた。
(俺に期待したって無駄だ!)
こんな虚しい脳内の叫びにだって無駄な労力は使いたくないんだ。
「雨宮―!早く答えろぉ!」
痺れを切らした教師が、催促する。
「あ、の・・・・・・」
黒板に集中しようとすればするほど、手首の冷感が心臓にまで突き刺さりそうで。
無意識の内に口での呼吸が荒くなる。
「そ れ・・・は―――・・・」
ぐにゃりと視界が歪曲する。
足裏がふらつく。
闇が視界を遮った。
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