1.8月12日

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暫く、保健室のベッドで休んだ後、千加とともに学校を後にした。 陽炎が立つアスファルト。 ふつうに起こる自然現象でも、このユラユラ揺れるのはキモチ悪い。 似たようなモノをいっつも視てしまうせいだ。 空の真上に陣取った太陽が、景色を白く飛ばす。 派手な色なんてない住宅街なのに、強い光のせいで、少し現実離れした景色と錯覚してしまう。 頭に被った濡れタオルも、生乾きの洗濯物みたいになっている。 「司、水分摂ってるー?」 同様に濡れタオルを被って、右隣りを歩く千加が水筒の麦茶をごくごくと飲んでいる。 (・・・何本水筒持って来てんだよ) 背中の蒸し暑さ解消の為、身体の前側に抱えたリュックを見る。 教科書とノート以外のモノが入っているのは間違いなさそうだ。 はぁ、とちいさく息を吐きつつ、校内の自販機で買った炭酸をがぶ飲みした。 「一気に飲むと、お腹冷えるよ」 「・・・・・・」 浮かび上がった言葉は、喉を刺激する泡といっしょに胃へと落とした。 今度は別の言葉が浮かんで、コレは発する気になった。 「リュック貸せよ」 「いーわよ、疲弊しているヒトに重たい荷物なんかダメに決まってるでしょ。・・・今はヘーキ?」 「いまのところは」 キツイのは体力を奪うこの熱だけ。 どこからかスパイスの凝縮した濃厚な匂いが漂ってくる。 あの刺激的な匂いは、この暑さと常に直結している。 食欲を誘う匂いが薄れたと思うと、今度はあちこちから線香の匂いが漂ってきた。 ちいさい頃は、この時期が楽しみだった。 いつもは会えない『友達』に会えるからだった。 それが、どんなにキケンかも知らないで。知らぬが仏とは、この事だ。
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