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甘い、花の香がする。
別段鼻が利くワケではないが、自分にとってこの香は特別だった。
「どうぞ」
その言葉に渋江がハッとして後ろを振り返ると、甘い香はコーヒーの香へと代わり、どこか虚ろだった頭は現実へと引き戻される。
「なぁんだ、君か」
肩透かし気味にそう言い放つと、彼女は呆れ顔でコーヒーを机に置いた。
「なぁんだ、じゃないですよ。
呆けていないで、ちゃんと仕事をして下さい」
「酷いなぁ」
いつもの軽口に内心苦笑いを浮かべながら、先程届けられた成分表を封筒から取り出す。
「ハイ、コレ。
若狭サンから」
「どうも」
自分の行動を読まれているのは癪に触るのか、苦笑いを浮かべながら彼女はそれを受け取った。
「ああ、実際に木蓮が使われてるんですね」
「木蓮の香って、漢方なんかの分野だとアレルギー性鼻炎の症状を抑えたりするからね。
『マグノリア』の副作用が軽いのも、原理としては同じだと思うよ」
「ナルホド。
・・・大丈夫ですか、渋江さん」
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