なぎ

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瀬戸内海の小さな島は今、騒めいている。なんでも遂にこんな島にまで軍から直々の要請が下ったという。 中身は全く伝わって来ないが、既に向こうの島は秘密裡に毒ガス実験が行われている。 俺たちの島も間違い無く、大戦に勝利する為の貢献を強いられるのだろう。 何が出来るというのか。この貧しい漁師の村に蓄えなどある筈も無い。狭い島の地面を掘ってもどうせ何も出てきやしない。海に出ても採れるのは小さな魚ばかり。 村に誇れる物があるとすれば、それは空の雲を鏡のように映す、ただただ美しい凪いだ海。 この海に浮かぶ小さな島など、大戦という大きな波が押し寄せればひとたまりもないというのに。
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