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画面に出てきたのは、驚いた表情でひっくり返る、間抜けな私の姿。そしてその顔の横に、もう一つ顔があった。腐って灰色に変色した皮膚。目は両方ともつぶれたブドウのようにひしゃげている。頭皮も所々剥(む)けていて、髪がマダラにしか生えていない。
そして、これもネズミ色をしている腕が、私の両肩にかけられていた。
私は、思わずスマホを取り落した。その様子があまりに異常だったのだろう。「どうかしましたか?」と女の人が声をかけてくれたが、私はそれにも驚いて飛び上がった。
その人にあった事を説明するため、写真を再び見るのも恐ろしく、私はただ「なんでもありません」とだけ言った。
その女の人は、わざわざ私のペンションまで送ってくれた。私は、両親に「気分が悪くなって、この人に送ってもらった」とだけ説明した。
そのペンションでは、泊まっている客達が同じ食堂で同じメニューをとるスタイルだった。あの幽霊の正体を教えてくれたのは、近くのテーブルのカップルだった。
「そう言えばさ、この辺って殺人事件があった所だよな」
茶髪の、シルバーのアクセサリーを付けた彼が言った。一応食事にふさわしい話題ではないと分かってはいるのか、声を落としてはいる。けれど、逆にそれが注意を引いてしまう、そんなしゃべり方だった。
「たしか、なんかチジョウのもつれ? とかいう奴? 彼女盗られた男が、恋敵を殺しちゃったんだって」
「やだ、こわ~い」
彼女の方が甘ったるい声を出した。
「殺された方はさ、まず最初に助けを呼べないように、喉をつぶされたんだってさ。それから死ぬまで痛めつけられたって……」
すぐ頭の近くで聞いた、うめき声がよみがえって、私は小さく震え始めた。
じゃあ、あのうなり声は、助けを求める……
「大丈夫? 顔色悪いわよ」
母親の声で我に返った。
「う、うん。大丈夫」
幸いにも、そのカップルはすぐ話題を変えて、私はあの灰色の皮膚の記憶と戦いながらもなんとか食べ終わった。
ちなみに、その心霊写真は、気味が悪くてすぐに消してしまったから、今はもう残っていない。
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