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二
砂浜に降りると、沙耶は少しはしゃいで、波打ち際に小走りで近付いていった。僕はそれには合わせずに、ゆっくりと沙耶のあとをついていった。
本当は砂浜には来たくなかった。誰かに見られるかもしれないし、砂が体について、車に残ってしまうのも気がかりだった。
それでも了承したのは、やっぱり沙耶のことが好きになってるからだろう。
「孝司、気持ちいいよ。」
素足にサンダル履きの沙耶が、こっちに向かって手を振る。
「今、行く。」
聞こえたかどうかは分からないが、とりあえず返事をした。
僕が波打ち際にたどり着くと、沙耶が僕の方に駆け寄ってきた。少し息を切らしている。
「ハァハァ。少し歩こっか。」
周りを確認して、手を繋ぐ。どちらからともなく、自然な流れ。沙耶の左手は僕の右手で包むのに丁度いいサイズ。幸せの感触。
2人とも無言で歩いた。今の2人には波の音だけで十分な気がした。いや、それとも、波の音の前では、自分の発する言葉に自信を持てなかっただけかもしれない。
ふと、沙耶を見ると寂しげな表情。
「大丈夫か?」
「大丈夫だよ。そろそろ行こっか。」
沙耶から手をほどいた。笑顔に戻る。
「家に帰らないといけないでしょ?」
「うん。そうだな。」
行き場の無い右手をポケットの中に突っ込んだ。
僕らが車に向かうと、波の音より行き交う車の音の方が耳に入るようになった。
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