7人が本棚に入れています
本棚に追加
1
「ねえ、奥さんと別れるとか、馬鹿なことはしないでよ。」
「分かってるよ。」
何も分かってない。私は孝司のことを愛している。
体だけの関係。二人でそう決めた。奥さんのいる孝司をいつの間にか好きになってしまった。
海へと向かう高速道路。外の風が気持ちよかったので、エアコンをつけずに窓を開けていた。
カーブを切る度に、私の髪が孝司の肩に触れている。
「私たち、付き合ってるわけじゃないし、体の相性がいいってだけなんだから。」
「だから、分かってるって。」
孝司が少し声を荒げた。
「それならいいんだけど。」
私は、不満そうに答えた。
本当はこのまま、2人でどこかに行ってしまいたい。そんな気持ちを抑えて、演技する。
インターを降りて、海沿いの国道に合流した。もう少しで私のアパートに着く。
土曜日の夜を一緒に過ごし、日曜日の朝。孝司に送り届けてもらう途中だった。
「少し、砂浜を歩かない?」
少しわがままを言ってみる。
「少しならいいよ。」
「じゃあもう少ししたら、左に入って。」
ウィンカーをあげ、左に入り、孝司は、駐車場に車を停めた。午前7時。20台程停められるこの駐車場には、まだ他の車の姿は無かった。
2人とも朝に強い。朝6時には目が覚め、すぐ行動する。少ない共通点の1つだった。
車を降りると、潮風が2人を包み込んだ。いろんなものを、若しくはいろんなことを許してもらっているような気がして、私は好きだ。
「ほら、いこうよ、孝司。」
「おう。」
素っ気ない返事。本当は来たくないのが言葉に出ている。
最初のコメントを投稿しよう!