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一
「ねえ、奥さんと別れるとか、馬鹿なことはしないでよ。」
「分かってるよ。」
何も分かっちゃいなかった。
体だけの関係。二人でそう決めたはずだった。なのにいつの間にか俺の方が恋に落ちていた。
海へと向かう高速道路。外の風が気持ちよかったので、エアコンをつけずに窓を開けていた。
カーブを切る度に、沙耶の長い髪が俺の肩に触れる。
「私たち、付き合ってるわけじゃないし、体の相性がいいってだけなんだから。」
「だから、分かってるって。」
少し声を荒げた。
「それならいいんだけど。」
助手席の沙耶が、不満そうに漏らす。
正しいことを言っているのは、沙耶の方だと分かっているのに、苛立ちは抑えられなかった。
インターを降りて、海沿いの国道に合流した。もう少しで沙耶のアパートに着く。
土曜日の夜を一緒に過ごし、日曜日の朝。沙耶を送り届ける途中だった。
「少し、砂浜を歩かない?」
優しい声で沙耶が提案した。
「少しならいいよ。」
「じゃあもう少ししたら、左に入って。」
ウィンカーをあげ、左に入り、駐車場に車を停めた。午前7時。20台程停められるこの駐車場には、まだ他の車の姿は無かった。
2人とも朝に強い。朝6時には目が覚め、すぐ行動する。少ない共通点の1つだった。
車を降りると、潮風が2人を包み込んだ。いろんなものを、若しくはいろんなことを見透かされるような気がして、あんまり好きになれない。
「ほら、いこうよ、孝司。」
「おう。」
できるだけ不快感を出さないように返事した。
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