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島田市~中條影昭の像
秒針が時を刻む音を意識して、心の中で「まずい」と呟いた。
背中を伝う脂汗。刻一刻と減っていく残り時間。
ギリギリまで追い詰められた時、盤上に光明が見えた。
パチンと気持ちの良い音を立てて、王の喉元に歩を突きつける。
対極の相手はまず驚き、そして悲しそうにこちらを見た。
「二歩です」
それで、ぼくの夏は終わった。
*
「日曜日に島田市に行こう」
郷土史研究部の平坂さんに誘われたのは、九月の終わりのことだった。
部室にはぼくと平坂さんだけ。郷土史研は幽霊部員ばかり――ぼくもその一人だけど――で、唯一の例外が平坂有紀さんだった。
平坂さんはおとなしそうな見た目に反して活動的な人で、週末はいつも史跡めぐりや遺跡発掘のバイトに出かけている。放課後は部室で古書を読んでいることが多いけど、歴史だけでなく、都市伝説や怪談の類いにも興味があるようで、この間は我らがF東高に出る幽霊のことをあれこれ調べていた。
「島田のどこに行くんです?」
「ちょっと、初倉のあたりに」
*
日曜――東高の正門で待ち合わせたぼくらは、旧国一を西に進み、島田市に入った。
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