島田市~中條影昭の像

3/5
前へ
/5ページ
次へ
「中條金之助影昭。不毛の台地を切り開いた旧幕臣のリーダー」  それから平坂さんは中條景昭らの業績について、ちょっと早口、ちょっと舌っ足らずな語り口で解説をしてくれた。  曰く、明治維新により慶喜公とともに静岡に移り住んだ幕臣の中に、大井川以西の台地の開墾を願い出た一団がいたこと。この辺りの気候風土に適した作物として、また、新政府の外貨獲得戦略に合致した作物として、茶の樹を選択したこと。明治十年頃には五百ヘクタール程まで農地を拡大したこと――実はこれらの話は以前にも聞いたことがあったけれど、そこはそれ。ぼくは時々相づちを打ちながら、平坂さんの話に聞き惚れる。 「そろそろだね」  橋を渡りきると辺りが薄暗くなった。木々に囲まれたお社があるのだ。ぼくらはお社の脇を通り抜けて一気に坂を駆け上がる。急に視界が開け、丘の斜面に蒲鉾条の緑が並ぶいかにも静岡な景色が出現した。 「おー、見えた。あそこだ」  平坂さんが一際見晴らしの良い場所に佇立する像の背中を指さして言った。 「――どうして棋道部に入らなかったの?」  茶畑の間を歩く道すがら、平坂さんはふいにそんな話を振ってきた。 「部活に入ってなくても大会には出られましたし……多分、バカにしてたんだと思います」     
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加