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「バカにしてた?」
「ええ。勝つことに真剣じゃない連中と一緒にいたって何にもならないって」
勝ちに拘って、結局負けて、何にもならなかったのがぼくなわけだけど。
「ふうん」
それきりぼくらは目的地まで黙々と歩き続けた。
中條氏は牧之原市まで続く広大な茶園にまなざしを向けるためだろう、大井川に背を向けて立っていた。彼の死後百年以上が経過した今も、牧之原台地は県内随一の大茶園地帯だった。
「郷土の英雄ですね」
「けど、彼らは成功者ではなかった。明治十年頃には五百ヘクタール程まで拡大した農地も、借金の形にとられてしまったり地元の農家に売り払ったりで、彼らの手からは離れていった」
「そうなんですか?」
「慣れない仕事だもの。思うようにはいかなかったんだろうね。明治半ばにはほとんどがここを離れてしまったそうだよ」
「結局何にもならなかったということでしょうか」
「――ちょっと残酷なことを言う」
平坂さんは中条影昭と同じに茶園を見つめて、続けた。
「不毛の台地はついに何も与えてくれなかった。そう嘆いた侍もいたかもしれない」
「いたでしょうね。きっと」
ぼくは手のひらを強く握りしめながら応えた。
「でも、茶畑は残った。今もまだ、ここにある」
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