現実

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 「アレのどこが良いの?」  梅雨明け前の晴れた日のじとじととするむし暑さで、ご機嫌ナナメのナナミが聞いてきた。  どこって……ゆりが答えようとする前に、  「あづいぃぃぃ。なんで、こんなところで待ち合わせしたんだろ」  大学のカフェテラスは構内を見渡せる広場にある。見渡せるだけあって太陽を遮るものがほぼない。ゆりは暑いから食堂にしようよ、とナナミに進言したけれどにべもなく却下された。  「なんでって、ナナミが決めたんでしょ」  「ゆりのためじゃん」本当かどうかは疑わしいが、ナナミはゆりのために、わざわざここを集合場所にしたそうだ。  共学なのにカフェテラスは女子で埋め尽くされている。大学の構内で一番おしゃれな場所で雑誌でよく紹介される有名店のような雰囲気が、人からどう見られるかが命のザ・女子大生には人気なのだ。ゆりはナナミもそうに違いないと思っている。  かく言う、ゆりも、ここが好きだ。他の人とはちょっと理由が違うけど。ここからは多くの学生たちが行き交うのが見える。就活中らしい学生がリクルートを着て歩いている。暑そうだ。  「で、どこが良いの」  学生たちの中に、一際目立つ人がいる。サーカスでよく見るビビットカラーの衣装を着たピエロだ。ナナミが彼に視線を向けながら言ってきた。ゆりはナナミがさっきの答えを聞くつもりだったことに驚いた。  「声かな」  本当は、どこが好きかなんて分からない。答えはひとつじゃないから。いろいろ面倒なので、最初に惹かれたところだけを答えにした。  ピエロは劇団の公演のビラを配っているみたいだ。声までは聞こえてこない。  「声かぁ。声が良くても役者の素質ないんじゃないの? 大学の劇団でしょ。同好会でしょ。しかも3年で役がもらえないってどういうこと? 役者としてダメでしょ」  確かに。演劇のことは分からないけど、ナナミが言ってることも分かる。でも努力の人なんだよ。劇団の練習がない日でも、一人で発声練習とか、稽古を地道にしてるんだよ。と言いたい。  「それに私たち3年だよ。ぼやぼやしてたら大学生活なんて、あっと言う間に終わっちゃうからね」  なんか、ナナミの説教が始まりそうだから話題を変えよう。
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