真夜中の彷徨者

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  (…あの狸達が横たわっていた場所…たしか…   …この辺りだったよな……。)   私は釣りの帰り、“その場所” を隈無く調べ   尽くした。   すると、   普段気にせずに通り過ごしていた風景の中に、   興味深いものを発見したのである。   注目したのは、高さ3mを越える八ツ手の木。   その木をじっと眺めていると、何かに見えて   くる。   木全体のシルエットと、樹葉の揺らめき。   それはまるで、   手招きをしている狸のようだった。   それを見た時、私の中にあった “モヤモヤ”    が徐々に晴れていくのが分かった。   (…はっ!? こ…これは…っ! もしか   したらあの狸達…この木を見つけて………。   寿命が迫ってたって事は…意識もかなり   朦朧としてたハズだ……。   自分達の子供と重ね合わせ…幻覚を見ていた   のかもしれない……。   それで、   八ツ手の木の方へと行ってしまったんだ…。   だけど…途中で力尽きてしまって………。)   開けた缶ビールを一時間後に飲むような、   スッキリはしたものの、何とも後味の悪い   謎解きとなってしまった。   しかし、私はそれでいい。   私はただの釣りバカなのだから。   あれから数ヶ月。   私は、相変わらず釣行に出掛ける日々を送って   いた。   あの “奇妙な出来事” は、パッタリと無く   なった。   しかし私は時々思うのである。   いつかまた忘れた頃に、   同じ境遇の狸達が “あの場所” に現れる   ような気がしてならなかった。   人間に化け、   真夜中の彷徨者となって………     
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