真夜中の彷徨者

2/10
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
     これといった趣味のなかった私が、会社の   上司に誘われて行った『釣り』に、めっきり   ハマってしまった。   一言に『釣り』と言っても、海には星の数程   の魚が生息するが故、その釣法は様々で   ある。   私が特にハマったのは『ルアーフィッシング』   というものだ。糸の先に、ルアーと呼ばれる   小魚に似せた疑似餌を付け、釣り人が竿を   操作し、本物そっくりの小魚を演出して大型   魚を誘い出すという釣法である。  『スズキ』   という魚がいる。その魚は釣り人の間で、  『シーバス』   とも呼ばれていて、ルアーフィッシングの   主なターゲットとして人気を博している。   シーバスの最盛期といえば、河川の水量が   増水し始めの5月中旬から、7月中旬の初夏   とされている。   趣味=『釣り』という人間は、暇さえあれば   “その”ことを考え、“それ”に時間を費やして   いるのではないだろうか。私も同様に、会社   が休みの日は、   (よしっ、今日は絶対…大物を釣ってやるっ!)   そんなふうに気合いが入るのであった。  「ピピピピピっ! ピピピピピっ!!」   携帯電話のアラームが鳴った。  「……ん、もう…3時か……。 よしっ、出発   するか……。」   日の出や日没といった、いわゆる薄明かりの   状態が魚を釣る絶好の時間帯なのである。   私はそそくさと準備を済ませ、期待に胸を   膨らませながら海へと向かった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!