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「かわいそうになあ。そら、もう大丈夫だぞ。海に帰って元気になるのだぞ。」
そう言いながら、その男は霊亀を海に帰した。これは偉い事になった。もしも、乙姫が霊亀を謀ったことが知られてしまえば、お家は断絶。乙姫はその男が立ち去るのを待って、霊亀を浜に戻し、岩場まで引きずると、思いっきり岩を叩き付け、とどめを刺した。
あの男、ただでは済まさぬ。乙姫は、自分の家臣を使い、亀の姿を装い、あの時助けていただいた亀です、お礼がしたいと竜宮城に案内させた。男は、乙姫を見て、一目で気に入り、乙姫はその男を竜宮城でたいそうもてなした。しかし、数日もすると、男は家のことが気になりだして、家へ帰ると言い始めた。乙姫は、名残惜しそうにしながらも、手土産に玉手箱を手渡すことに成功した。
本来なら、自分の手を汚すことなく、霊亀を殺させることができたのに。自分の手を汚させた罪を思い知らせてやる。天界の数日は、下界の数百年にもなることは、その男は知らなかった。
「決してあけてはなりませんよ。」
乙姫は魔法の言葉を囁いた。人間という者は、禁忌を犯すものなのだ。決してあけてはならないと、禁じられれば禁じられるほど、あけてみたくなるものだと聞いている。
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