空と海と君の声

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「凪! 雨上がった!」 弾んだ声に顔を上げる。さっきまで静かな音を立てながら細く降っていた雨はすっかり上がっていた。 「ホントだ」 「虹でないかな、虹」 楽しそうに窓の外を眺める海斗の姿はさしずめ犬だ。尻尾と耳が見える気がする。 私がくすくすと笑えば、海斗は不思議そうに振り向いた。 放課後に会う海斗はいつも機嫌がいい。ニコニコしていて、身振り手振りを交えながら私に今日あった出来事を聞いてくる。 場所は決まって、三階の奥にある音楽室。 坂道の多いこの街で、山の麓にある学校は天気がいいと窓から海が見える。 快晴の日に受ける授業は景色を見ているだけで格別な気分になるほどに綺麗だ。 そんなここの景色は、海斗もお気に入りで。 「凪、あのさ」 窓を背にして、海斗は席に座る私を見る。ただ純粋に、真っ直ぐと。 私も負けじと見つめ返す。そうすれば海斗が嬉しそうに笑うから。 「俺、凪のことすっげえ好きだよ」 そして、必ずそう言うの。 「うん。私も、海斗が好き。大好き」 だから、必ずそう返すの。
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