1人が本棚に入れています
本棚に追加
「見て、海斗ーー虹だ」
薄くなった雲から射し込む光に照らされて、海の上に虹がかかっている。思わず顔を向けたのであろう海斗も、それを見て顔を輝かせた。
「ホントだ。見ろよ、天使の梯子もある」
雲の僅かな隙間から帯状の光が、海上をまるでスポットライトのように照らしている。
空、光、虹、そして海。
「……綺麗だな」
「うん。ねえ、覚えてる? 海斗が私に告白してくれたのもあの辺りの海岸だったよね」
まだ五月で、誰もいなかった海辺。私のーー私達の特別な場所。
「私、あの日から海が大好きになったんだよ……また行きたいね」
赤く腫れた目を細めて、海斗も頷いてくれた。
「行きたいな、一緒に。で、俺は凪にプロポーズするんだ」
「それ、今言っちゃうかなぁ」
呆れて肩を竦めてみせれば「そっか」と照れくさそうに頭を掻いている。
「……でもさ、いつかは子供も連れて行くんだよね」
私達の。と笑う。十年後、きっとそうなっている。
「さてと、そろそろ行こうかな。雨も上がったし」
立ち上がる私に海斗は少し寂しそうにしていた。そんな顔をされると名残惜しいけど、傘を持ってきていなかったから今の内に行かなくては。
「そんな顔しないで。すぐ行くから、ね?」
「……分かった」
拗ねる姿はいつも以上に子供っぽい。
「じゃあな、凪。また明日」
「うんーーまた、あとでね」
最初のコメントを投稿しよう!