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小春日和
たった二ヶ月の付き合いであっけなく破局を迎え、きっかけも掴めず彼女は連絡もできず終い。かと思いきや、SNSで呟く彼を見つけて事あるごとに絡み続けて早8年。
「というわけで、なんか結婚することになりましたー!」
「なりましたー、じゃない!」
激しいツッコミを入れたのは、親友の秋穂。能天気に結婚報告をする小春さんはご機嫌だった。
「えー、なんで?」
「いや、よりを戻しましたなら百歩譲って分かるけど、結婚しますってあんた…、それ騙されてるでしょ。結婚詐欺。あんた劇的に男運ないし」
「なんというか、ストーカーっぽいよね」
「え」
秋穂の失礼な物言いにそれまで黙っていた紀子も続いて、小春は思わず声を漏らした。
「事あるごとに、ってそりゃ8年もやってりゃ狂気すら感じるけど…よく久志くん我慢したというか。それで結婚って」
紀子が言うと、三人の視線が一点に寄せられた。
「…そういう話って普通、俺のいないところでするもんじゃないの?」
居心地悪そうに珈琲を啜る彼、羽柴久志は、小春さんとは対照的に不機嫌そうだ。
「本人不在じゃ、話もまとまんないでしょうが」
「いやむしろ、まとまった後なんだけど」
噛みつく秋穂に、面倒くさそうな久志。小春はご機嫌そうにその様子を眺めていた。
何度も何度も、めげずに懲りずに。小春の押し出し一本と言わんばかりに口説き落とすのに、気付けば8年。
「でも、8年かぁ。小春散々、海外事業部の宮本さんに口説かれてたのに。期待のエース」
「係長にも気に入られてたよね、そういえば。何度か打ち合わせも兼ねてとか言ってご飯連れてかれてたっしょ」
職場が一緒の二人は、目ざとくその様子を見ていたようだ。
「どっちにもちゃんと話したよ。8年間、元彼に片想いしてますって」
「それ、可愛そうな女にしか見えないから」
「“傷心の私を慰めて”って取れなくもないね」
秋穂がため息を吐いて、あざといとでも言いたげに無表情で紀子が被せる。
こんな中に、男一人。久志は気まずいご様子だった。
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