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紀子と久志は似ている、小春はそう思っていた。
あまり思考を表に出さずに、言葉も少ない。グサッと刺さるような言葉だけを不意に言ってみたり。
二人は似ている。だからこそ、それを感じて小春は紀子と関わるようになったのかもしれない。
「ま、そんなわけだから、式とか諸々決まったら連絡するね」
「久志くん、小春泣かしたら殴りこみに行くからね」
軽やかな笑顔で、どこまでが本気なのか分からないことを言う。秋穂なら本当にやりかねないと思うから怖い。久志はどうやら少しは慣れたようで、笑いながら手を上げていた。
女三人行きつけの、いかにも女が好きそうなオーガニック推しのカフェ。木製の扉と看板を背にして、小春と久志、秋穂と紀子に分かれて解散をした。
“ちょっと、海に寄っていかない?”
そう言い出したのは、小春だった。
濃紺が青を包み始める海岸沿いに車を付けて、堤防沿いを二人並んで歩く。
「ほんと好きだよな、海」
「そりゃ」
クスッと小春が笑うと、久志は眉を寄せた。
「付き合ってた頃、たしかによく来てたけど。嫌じゃねぇの?」
「なんで?」
「いや…別れたのもここじゃん」
振った張本人が言うのはどうなんだろう、と彼は一瞬ためらった。けれど、彼女はさらっと返す。
「だからだよ。終わりから始めないと」
伏し目がちに微笑んで。
「ねぇ、さっきの話」
「ん?」
小春はふと気になっていたことを口にする。
「勿体ないってどういうこと?」
「それ、お前が聞くの?」
言わなくても分かれよ、と思う久志の心は小春には届かない。言おうか言わまいか迷っていることすら、けして彼は悟らせない。
「もう離れたりしないから、大丈夫だって」
言って彼女の頭にポンッと手をやった。嬉しそうに微笑んだあと、小春が零す。
「あたしが離れることはあるかもね」
「え」
彼女が笑うと、久志は眉を寄せた。
そうして二人は、帰路に就く。本当は半同棲状態のここ数日。彼が今日どちらの家に帰るのかはもう決まっていた。
ひた走る車の中は、彼の好きなヒップホップだけが軽快な音を奏でていた。
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