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真夏は獣欲をしたたらせて猛然と彼女へと殺到した。しかし、熱線一条すら彼女の白い肌を犯すことはかなわなかった。
彼女は日傘を傾けて、麦わら帽子の廂から空をあおぎみた。青地に偏在する片雲は蒼穹にあってかえって存在感を薄くするもののごとく、いまにも空に吸いこまれて消えてしまいそうなほどはかなく見える。
海につうじる坂道をあがりながら、彼女はここ数日来心を悩ませつづけているある問題について思いをめぐらしていた。
彼が浮気をしていた。発覚したのはほんの数日前だった。教えてくれたのは大学の友人だった。
「あんたの彼氏、浮気してるよ」
寝耳の水の言葉に、最初は信じられなかった。入学からずっと親昵している友人を、一時期は完全にうたがうほどだった。きっと自分たちの幸せを妬んでいるのだと勘ぐり、忠言にも耳を貸さず、さんざん罵倒し、大喧嘩をやらかしてしまった。友人は、その彼女のヒステリックな罵詈雑言をあまんじてうけた。
それでも不安はあり、ある時彼の前でなにげなく自分の友人の彼氏が浮気していたらしい、これは最低だ、パートナーに対する裏切り行為だ、絶対にゆるせない、あなたもそうおもうだろうと同意をもとめたところ、彼は急に真顔になり、かとおもうと青ざめて、うろうろと落着きをうしなって部屋を右往左往したかとおもうと、その挙句、もう逃げられないと観念したのか、わっと床に五体投地して彼女に許しを乞うように縷々と自身の罪状を告白しはじめた。これこそまさに語るに落ちるというものだった。
彼は全面的に自身の非をみとめた。言い訳がましい言辞はひとことだももらさなかった。その代りにわかれたくないという意志だけは固く護持してゆずらない。彼女は答えを保留し、まずまっさきに友人のもとに走った。どうすればいいかわからなかったが、第一に彼女に謝らなくてはと思ったのである。
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